外食の特定技能1号が新規受け入れ停止。業界の最先端・トランジット社と考える、今後のグローバル人材採用。

2026年4月13日、外食産業における特定技能1号の新規受け入れが、原則停止されました。グローバル人材を貴重な戦力として採用してきた飲食業界。頭を抱えた人事担当者の方も少なくないことでしょう。
現在、飲食業界では何が起こっているのか。今後、飲食業界はどのようにグローバル人材の採用・活用を考えればいいのか。
そこで、今回は七里ヶ浜のドライブインカフェ「Pacific DRIVE-IN」を始め、多彩なブランド展開で飲食業界をリードするトランジットホールディングス様との対談を実施。同社の人事を担う小川優太様と、グローバル人材紹介サービス『GLOBAL REACH』の担当者・井上洋輔が、今後の飲食業界におけるグローバル人材採用のあり方について語りました。
【プロフィール】
株式会社トランジットホールディングス
戦略人事部 採用セクション長 小川優太様
シドニー発のモダンギリシャレストラン『アポロ ( THE APOLLO )』などの店舗勤務を経て人事部門へ。自身の海外経験を活かしつつ、新卒採用、中途採用に加え、グローバル人財の採用にも取り組む。
株式会社WEWORLD
GLOBAL REACH事業部 井上洋輔
外国人人材紹介職の経験を経て、2023年にキャリアコンサルタントとして入社。人材紹介事業の立ち上げから加わり、現在は、企業の採用支援・学生の就職支援を主に担当している。
「ここからは情報戦」。トランジットの受け止め方

▲株式会社トランジットホールディングス 戦略人事部 採用セクション長・小川優太様(写真右)と、株式会社WEWORLD・井上洋輔(写真左)
——2026年4月13日から、外食業の特定技能1号が原則、新規受け入れ停止となりました。まずトランジットホールディングス様では、この発表をどう受け止められましたか?
株式会社トランジットホールディングス 小川さん(以下、トランジット 小川さん):
率直に驚きましたね。ただ、当社の場合は、2026年1月時点での特定技能試験合格者を今期の採用ターゲットにしていたので、もともと4月以降は多くの人数を採用する見込みではありませんでした。そのため、いきなり事業に大きな影響が生じる、という状況ではなかったかもしれません。
——その中でも、2026年4月以降、採用活動にどのような変化がありましたか?
トランジット 小川さん:
この状況が、いつ・どう変わるのかわかりません。ここからは情報戦になるでしょう。私たちのようないち企業よりも、登録支援機関の方が、リアルタイムで詳しい情報が入ってくるはず。GLOBAL REACHの井上さんにも「今後どうなりそうですか」と相談しているところです。
株式会社WEWORLD 井上(以下、WEWORLD 井上):
私たちも、他にグローバル人材を採用できる枠組みはないか、別のビザであればグローバル人材の採用は可能なのか、といった情報収集を進めつつ、情報提供をしていこうと考えています。
トランジット 小川さん:
せっかく日本に興味を持って、これから日本でキャリアを築きたい、長く暮らしたいと思ってくださっているグローバル人材の方々にとって、シビアな現実になってしまったのは事実。それならば、今の状況下でもどうやって雇用を進められるのか、私たちのお店で働いてもらえるのか。新規受け入れ停止の発表以降、その方法を探り続けてきました。

人材の争奪戦の中「選ばれる会社」でいられるか
——外食産業全体には、どんな影響が広がりそうでしょうか?
トランジット 小川さん:
影響が大きいのは、やはり全国展開しているチェーン店だと思います。グローバル人材の新規受け入れが止まれば、出店計画や事業計画にも影響が出ることでしょう。もしこのまま数年間受け入れが止まれば、業界全体に大きなダメージがある。情報が明らかになるにつれて、外食産業として、できること・できないことが、はっきりしてくると思っています。
WEWORLD 井上:
現時点ですでに起き始めているのが、人材の取り合いです。特定技能1号は決まった人数しか日本に在籍しないことになり、企業同士で限られた人材を確保し合う状況が生まれます。だからこそ、これからは「選ばれる会社」であることが、より重要になるでしょう。

——今後限られたパイを奪い合う状況が加速する中で、グローバル人材を採用したい企業には、どのようなことが求められるのでしょう?
トランジット 小川さん:
ブランドコンセプトや働き方、その先のキャリアなどの魅力を提示することではないでしょうか。単なる労働力ではなく、その人の5年後・10年後のキャリアまで見据えて採用し、育てていけるか。特定技能1号にとどまらず、どうすれば2号を取れるのか。そうした支援を充実させて、求職者の方に示すことが問われると思います。恐らく日本人の採用市場と似たアプローチになると予想しています。
WEWORLD 井上:
あわせて欠かせないのが、働く方にとって安心できる環境です。給与やキャリアの魅力だけでなく、日々の不安に寄り添い、仲間とのつながりを感じられるか。そうした環境の有無が定着を左右し、「この会社で働きたい」と選ばれる理由になっていく。採用するときだけでなく、採用した後をどう支えるかまで含めて設計することが、これから求められると思います。
トランジットの現場で実践された、グローバル人材の居場所づくり
——グローバル人材に「選ばれる会社」であるために、トランジットホールディングス様で進めている取り組みはありますか?
トランジット 小川さん:
キャリア形成の支援は、特に力を入れています。たとえば、弊社では、ソムリエや管理栄養士など飲食の現場で使える資格の取得に、お祝い金をお渡しする資格奨励金制度があります。さらに今後は制度を拡充して、日本語能力試験の一定水準に合格した際にも報奨金を提供できるようにしたい。そうすれば、グローバル人材の方々もよりモチベーション高く働いてもらえるのではないかと考えています。
また、社内では「イングリッシュコミュニティ」という取り組みも進めています。本社オフィスの近くにあるスペースで月に一度、「日本語禁止。会話は英語だけ」というルールで、メンバー同士、対話を楽しむんです。社長の中村も含め、部署や年次の垣根を超えて多様なメンバーが集まる中、GLOBAL REACH経由で入社いただいたグローバル人材は、ネイティブスピーカーとしてファシリテーションを担ってくれています。彼ら自身も、「社長とこんな話ができるとは思わなかった」と言っていて、社内とのつながりが増えたことを喜んでくれていますね。

WEWORLD 井上:
グローバル人材が、価値を発揮できて、他の社員ともつながれる環境を用意する、ということは大切ですよね。その点、トランジットホールディングス様は、とても素敵な取り組みをされていると感じています。ある店舗でアメリカ出身のスタッフが、入社当初、日本語でのコミュニケーションに苦労していたことがありました。その際、マネージャーが、彼女に「店舗全体の英語の指導役」というポジションを設けたんです。社員に英語のレクチャーをしたり、外国籍の求職者の面談に同席したり。そうしているうちに、彼女は職場での居場所を見つけられた。本人も「あれは大きな出来事だった」と話しています。
トランジット 小川さん:
慣れない環境では、どの国の方でも不安があるものです。だからこそ、その人の得意なことを自然と発揮できる場を用意したいと思っています。母国語を活かすことは、そのひとつ。それが自信を取り戻すきっかけになるんです。

▲実際にトランジットホールディングス様が運営する店舗で活躍するグローバル人材
一人ひとりに真摯に向き合い、定着を図っていく
——外食業における特定技能1号の原則新規受け入れ停止に伴い、今後、グローバル人材の転職市場が盛んになっていくと考えられます。市場の人材を振り向かせ、入社後も定着させるために、どのような取り組みが重要になるでしょうか?
WEWORLD 井上:
海外では、1社である程度経験を積んだら、すぐに次の職場へ転職する、というキャリア観が一般的です。一方で、日本の企業では、できるだけ自社で長く働き、スキルアップ・キャリアアップしてもらいたいという考え方が強い側面があります。早期離職を防ぐためには、そのギャップを埋めることも重要です。
そこで有効なのが“ブリッジ人材”の存在。つまり、すでに日本で長く働いている外国籍の人材が、これから働き始めるグローバル人材に「日本での働き方はこういうものだよ」と実体験を伝えるんです。GLOBAL REACHにも外国籍のスタッフが4名(2026年7月時点)在籍しているので、入社前後で丁寧にコミュニケーションを取る場を設けることで、本人がその企業で働き続けるイメージを持てるようにサポートしていきたいと考えています。
トランジット 小川さん:
グローバル人材の方々にとっては、働いてみて初めてわかることがたくさんあります。キャリアの築き方も含めて「思っていたことと違う」というギャップに直面する場面もあるでしょう。そうしたつまずきをチームで受け止めて、一緒に解決していけたら理想だとは思いつつ、現実的にはそこまで手が回らない場面も少なくありません。だからこそ、GLOBAL REACHのみなさんが入社前から彼らを親身にフォローしてくださるのは、本当に心強いです。

——最後に、今後お互いにどう協力して、この状況を乗り越えていきたいと考えていますか?
トランジット 小川さん:
特定技能1号の原則新規受け入れ停止が発表された以上、新しいグローバル人材のご紹介に関しては、今後の制度の方針次第で相談させていただく内容は変わっていくことでしょう。ただ、どのような状況でも、いま働いてくれているグローバル人材一人ひとりの5年後・10年後の人生やキャリアを、GLOBAL REACHと二人三脚で見守っていきたいと思っています。これからも、大切な社員を一緒に育てていけるパートナーでいられたら幸いです。
WEWORLD 井上:
新規のグローバル人材のご紹介が難しい今だからこそ、一層「定着」にコミットしたい気持ちは一緒です。すでに入社された13名、一人ひとりが店舗の中心になるメンバーへ育っていけるように、サポートしていきたいと思います。
また、今後は職場のリーダーポジションを任せられるような人材が取得できる在留資格「特定技能2号」に向けたサポートも強化していけたらと考えています。上長の方と確認しながら、本人に何が足りていないかを見極め、次の一歩をお伝えする。定期的な面談を通して、自身の働き方やキャリアを振り返るサイクルを回すことで特定技能2号の取得、ひいては定着に結びつけられたらと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
